2012年1月7日土曜日

ソクーロフによるファウスト

ソクーロフの『ファウスト』が今年劇場公開されるらしい(見てきた感想はこちら)。トレイラーを見ると相変わらずの色調と音響が身体の奥のほうに響いてくる。


レーニンの『牡牛座』、ヒットラーの『モレク神』、昭和天皇の『太陽』に続く権力者4部作の総仕上げになる作品とのこと。これらの作品に共通しているのは、権力者を偉大に見せるための通俗的なストーリーや取り巻きの視点からは離れて、人間としての彼らのあり方を切り取っている点。

『ファウスト』といえばゲーテの戯曲。新潮文庫から出ている高橋義孝訳のそれをドイツへの長期旅行の際に何度か読んだ。自分としては陰惨な感じのある第一部よりも第二部の方が好きだったが、細部は忘れてしまった。

ソクーロフによる『ファウスト』は第一部を映像化したようで、読み返しておく必要があるかも知れない。ただ、実在した人物たちを扱っていた権力者四部作の仕上げにフィクションを持ってくることは筋が合わないので、恐らくこれはゲーテやトーマス・マンの作品のオリジナルである、実在したゲオルク・ファウスト博士を映画化したのではないかと思う。

このゲオルク・ファウスト博士には色々な伝説があるものの、著作が焚書のために消失していたりするせいで実像が極めて分かりづらい人物のようだ。彼にまつわる無数のフィクションが存在するという意味ではソクーロフが取り上げた他の権力者たちに近いものがある。

最終的には救済が訪れるゲーテのファウスト博士とは異なり、実在のファウスト博士は変死を遂げていたらしい。観てみないと何とも言えないが、"第一部"を映像化しているのはそういうことなのではないかと思う。

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