2012年9月5日水曜日

【読書】スティーブ・ジョブス(3/3) アップルの作戦能力

これまで、ジョブス個人についてばかり書いてきたので、一応は仕事もしている人間として、アップルという会社について。

アップルについては本当に色んな本が出ていて、そのなかで私が読んだのはごく一部なんですが、最近話題になっているものということで、『僕がアップルで学んだこと』。

著者の松井博氏はジョブスが復帰した頃からアップルにおり、最終的には本社でシニアマネージャーを務めていました。その視点からアップルの強み、特にOperational Capability(作戦能力?あまり適切な訳語を知らず)について語っているのがこの本です。

実は松井氏のブログ(リンク)を読んでいただいければ、できて当たり前のことを当たり前にこなす上にそのレベルを少しずつ上げていくアップルという会社の凄みが伝わります。蛇足ながら、、少しだけ本からの抜粋を。

・研究開発費
MS1/8Google1/3。明快な商品コンセプト、優れたデザインを開発工程の上流で生み出した上で、そこから先の開発や製造はケチケチとシビアにやっていく。 コンセプトやデザインがしっかりせずに良いものを作るのは不可能。ここが定まっていないと、開発費は嵩んでいく。 
・開発状況は「定点観測でチェック」
著者の松井氏は日本風にいえば「品質保証部」の統括。アップルにおける品質保証部の役割とは、品質を「保証」しようとする努力ではなく、開発中のプロジェクトの状態を定点観測することで、その製品が出荷可能な状態にどの程度近づいているかを測る機能。部署ごとに責任を持つ範囲に関するデータを持ち寄り、互いにチェックしあうことで定点観測を行う。 
・社員同士で競争させる、社外の「アップルで働きたい人」も競争相手
社内転職も比較的容易なので、いい意味で目立つ人はより花形の部署へ移り、出世も早い。優秀な人がそのときどきに「ホット」なプロジェクトに集まってくるので、会社が注力したい製品開発において自然と優秀な人材を確保できる。
・明快な責任の所在、説明責任、責任と自由裁量はセット
社内政治という形で表れていますが、相互にプロフェッショナリズムを求める文化ということだと思います。上記の基本的な考え方があってのものなので単にポリティクスが渦巻いているのともまた違った趣があります。もちろん、ここには責任に対しての報酬もあります。  

R&D費用などは変動もあると思いますが、品質保証に関しては同じような考えで臨んでいたので、自分のやっていたことの裏付けがとれたようでした。

自分のいた分野では、品質は印象論や個人の感覚で語られがちで、悪くするとシックスシグマに関するジョーク(合格基準を緩くすれば99.9997%なんて簡単に達成できる)みたいになりがちなのですが、きちんと根拠をとれるようにプロジェクトを設計しておくことは重要ですね。

というか、本を読んだ限りシックスシグマを愚直に追求しているのではないかと思いますが。

『僕がアップルで学んだこと』では、アップルの熾烈な社内政治についてもよく書かれています。あまり知られていなかった点で、この本がブレクしたきっかけの一つだと思います。社内政治については伝記のなかでもアップルとピクサーの文化の違いとして軽く触れられていいます。あまり突っ込んではいませんでしたが、やはりこれもジョブスに端を発したものなのでしょう。

単純に人数だけ見ても、ピクサーとアップルとでは組織の色合いが異なります。作っているものだもありますが、ジョブスの甘えを許さないペースで進めていくやり方を徹底する上で、関わる人数を考えるとアップルの方がより強い統制が求められるものと思います。

自分の経験に照らし合わせてみると、グループ全体で10万人を超える企業の会長の方にお会いしたときには、とにかく恐ろしいスピード感を求めるところに圧倒されたのですが、一方でその企業と仕事をしたときには、何事につけ時間がかかってしょうがないというギャップに面食らったことがあります。

得てして、組織で仕事をしていく際には受け渡しの段階で情報が加わったり減ったり、間違って伝えられたり、小回りは効きにくくなります。それ意外にもどこかがサボっていることもあるでしょうし、もたれ合いが発生することもあります。

その解法のひとつが、個々の部署のプロフェッショナリズムをベースとした相互監視体制であったのではないかと思います。ジョブス復帰後にプロダクトの数を絞ったことで、それぞれの開発状況について状況把握が行いやすくなる効果もあったと思います。

伝記では、あまりこの辺りのマネジメント的な部分は深掘りされていません。恐らく、死後にCEOを継いだティム・クックの影響も大きいためではないかと思います。どちらかといえば、ジョブスはそっち型ではなかったと思いますし。