2012年11月5日月曜日

【読書】ここは退屈迎えに来て/山内マリコ


『ここは退屈迎えに来て』を読んだ。

三十路帰郷モノとでも呼べばいいのか、都会に出ていた女性が何かのきっかけで田舎に帰ってからの生活を描いたマンガや小説はそれなりに需要があるようで、これもその一種。

ネットで話題になっていたのは、三浦展のファスト風土論に引きつけてある部分で(大した分量ではない)、既存のフォーマットの上に味付けとして使われているのだと思っていたら、巻末の参考文献に『ファスト風土化する日本』が載っていた。

これまで自分が読んできたなかで、こうした形で読者の読みに方向性を与えている小説に出会ったことが無かったので、けっこうな驚きだった。

登場するアイテムがいちいち的確(というか、同世代の匂いがすると思っていたら同い年だった)なことや、「地方都市のタラ・リピンスキー」でネットの小咄にあるようなどんでん返しを持ってくる辺りで、テクニック、マーケティングで書かれている部分が非常に大きい作品なのではないかと思った。

そして、そのために作品自体が閉塞してしまっている感がある。

読み進めるに従って過去に遡っていく形になっているが、そのことが登場人物の未来を形作っていく何かを明らかにするわけでもなく、現在の姿に新たな彩りを加えるわけでもない。どん詰まりの現在に行き着いて、そこで終わりである。

プロダクトとしての完成度は高いが、そこから先が無い。

それが自分の世代だと言ってしまえば、そうなのかも知れないが。幻冬舎の本だし、ミニマルな点に共感しながら読んでいるのがちょうど良いのかも知れない。