ドン・デリーロの小説からは映像的な印象を強く受ける。運動と静止、視線の移動と突然の停止を巧みに織りまぜた情景描写、イメージを連続的に連ねていくスタイルで、物語性は決して高くない。それどころか、かなり読み込まないと筋を追うことすら難しいこともある。このスタイルとテーマとが完全な一致を見せてメガノヴェルでやりきったのが『アンダーワールド』であり、マンハッタン47番街の24時間を封じ込めたのが『コズモポリス』である。
クローネンバーグといえば『ビデオドローム』や『イグジステンス』に登場するような、ドロドロネバネバな肉体の変容のイメージが強いが、最近の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』や『イースタン・プロミス』といった作品では精神の変容に焦点が当てられている。とはいえ、内なる異形のものを取り出す手際と表現力は、現役の映画監督のなかで一番高いのではないかと思う。
ヒストリー・オブ・バイオレンス
イースタン・プロミス
『コズモポリス』そのものの作品からして、最近のクローネンバーグの感心に沿った映画になるのではないかと思う。岡崎京子の『ヘルター・スケルター』が映画化されるというニュースがあったが、あの作品に最も合った監督はクローネンバーグではないかと思う。
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